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大阪家庭裁判所 昭和48年(家)3032号 審判

申立人 大森雄吉(仮名)

事件本人 大森カツ(仮名)

主文

本件申立てを却下する。

理由

申立人代理人は、事件本人を準禁治産者とする、との審判を求め、申立ての実情を次のとおり述べた。

一  申立人は、昭和三七年三月六日事件本人と婚姻した。

二  事件本人は、浪費癖がはなはだしく、昭和四二年ごろから、兄弟姉妹はもちろん、申立人(大工)の仕事仲間、親方、更には隣近所、米屋、クリーニング屋などから金員を借り受けて、これを返済せず、ひいては申立人の背広、オーバー、子供の洋服、カラーテレビ等、金目のものはことごとく質入れし、家の中には、何ひとつ残つていないのである。

三  事件本人は、申立人が預けておいた実印、権利証を無断で使用し、高利貸しから多額の金員を借り受け、更に申立人所有の自宅をも売却すべく、すでに手付金一五万円を受け取つて売買契約をしていることが判明した。申立人は、手付金を返還して、右契約を解約してもらつた次第である。

四  結局、借金が多額のため、その返済のためには、申立人は、その所有の自宅をも手放さざるを得ないものと苦慮している有様である。申立人は、すでに七〇〇万円あまりの金員を事件本人が勝手にした借金の返済のために支払つて来ているのである。

五  このままでは家庭の平和はおろか日々の生活さえ危ぶまれると思われるので、事件本人に対し準禁治産の宣告をしていただきたい。

申立ての実情は以上のとおりである。以下は当裁判所の判断である。

申立人と事件本人とは昭和三五年一〇月同棲、三六年二月挙式、三七年三月に婚姻届けをして、昭和四八年一〇月まで同居、約一三年間の婚姻生活をして来た。申立人の主張するところによれば、昭和三八年四月ごろから事件本人の借金が始まり、昭和四八年一〇月までに約一九〇〇万円の借金をしたもので、それもまつたく申立人に知らされず、ただ事件本人がひとりで浪費したものであるとのことである。これに対し、事件本人の述べるところによると、約一七〇〇万円の借金があつたことは認めるが、これは事業上の借金がかさんだもので、事件本人の浪費によるものではないとのことである。又、事件本人によれば、返済不能の借金ができたのは、知人の借金の連帯保証人になつたところ、その知人が夜逃げし、その返済の資金を金融業者に借りることになつて、次第に借金も増え、利息の支払いに追われる形になつたことによるとのことである。申立人は、この間の事情はまつたく知らず、ただ、事件本人の旅行、物品購入などによる浪費が原因であろうと推測している。以上のように、両者の主張はくいちがつているが、当裁判所の調査の結果によれば、申立人が昭和四八年七月一七日に事件本人の借金を知つてから、申立人は、借用証その他の資料を調べて、かなり事件本人の借金の経過を知つたことが認められるが、申立人主張の事件本人の浪費の事実については、申立人自身その内容をほとんど知らず、この事実を明らかにする疎明資料も、二、三の申述書があるだけで、しかもその内容が明確でない。事件本人の経験乏しい事業(内職)からして、金融業者から借金してその支払いが滞り、利息の支払いのみに追われる破目におちいつたことは推測に難くないところであり、一部申立人提出の資料にもこれをうかがわせるに足りるものがある。いずれにせよ、本件においては、そのような事件本人の抗弁する事実を明らかにする資料が必要なわけではなく、申立人主張の事件本人の浪費の事実(もつと正確には、事件本人が浪費者である事実)を明らかにする資料こそ必要なわけであるが、その資料が十分ではない。当裁判所の調査の結果によれば、申立人は、現在、大阪地方裁判所で、事件本人を被告として離婚訴訟を争つている最中で、その訴訟を有利に展開させるために本件準禁治産宣告の申立てをしたとのことであるが、事件本人は、昭和四八年八月以降、借金が発覚してからは、長女とともに、父及び妹の援助で、一か月五万円前後の生活を維持していることが認められる。この点からは、事件本人の借金は、事件本人の浪費傾向よりはむしろ金融業者からの借金をうまく処理できなかつたことによつて生じた疑いが濃い。いずれにせよ、事件本人は、過去約三年間にわたつて、つつましい生活を送つているわけであつて、これを浪費者と判定することは困難であり、又、事件本人には現在めぼしい財産はなく、夫である申立人の財産についてはすでに十分な対策が講ぜられているようであるから、今、事件本人を浪費者の故をもつて準禁治産者とする必要性は認められない。

以上の理由により、本件申立てを却下する。

(家事審判官 堺和之)

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